確率の問題

#2006/02/17 追記
#ここには10/49を主張する(1/4な方を説得する)材料は何もありません.ここでの主張は最初に10/49を前提として,その論理展開を問題にしています.10/49を主張する(1/4な方を説得する)材料を求められてきた方は
http://d.hatena.ne.jp/Cryolite/20060217#p1
#に飛んでいただけますようよろしくお願いいたします.

http://plaza.harmonix.ne.jp/~k-miwa/magic/something/diamond3.html
今日の日記は上のページに書いてあることを正しく理解し納得していないと恐らく読んでも全然面白くない代物になっていると思います.まず上のページのダイアの問題を読んで,その解答と解説に十分納得した上で以下を読むことを強くお勧めします.

問題1
ジョーカーを除いたトランプ52枚の中から1枚のカードを抜き出し、表を見ないで箱の中にしまった。そして、残りのカードをよく切ってから3枚抜き出したところ、3枚ともダイアであった。

このとき、箱の中のカードがダイヤである確率はいくらか。

確率の問題です.ネット上に広く出回っている問題なので既知な方も多いと思います.以下は上のURLから引用させていただいた問題1に対する解答ですが,これはこの問題を取り上げている他のページでも非常によく見受けられる解答です.

解答1
49枚の中で、ダイヤのカードはまだ10枚あります。よって、一枚目のトランプがダイヤのカードである確率は10/49です。 これが正解です。

この解答,皆さんは納得いきますでしょうか?私はこの解答にまったく納得がいかないのです.以下では,この解答のどこがどうして納得できないのかを,ほとんど屁理屈のような理屈を並べ立てて説明しています.なのであんまり面白くないかもしれません.それを予めご承知おきください.
最初に断っておきますが,私は問題1で求めるべき確率の値が10/49であることには何の異論もありません.特に,問題1に対する解答として,ベイズの定理を用いた解答や事象の数え上げに基づいた解答などには何の異論も挟むつもりはありません.
私が納得いかないのは解答1の考え方,論理展開です.私が解答1に対して抱いている疑問は端的には以下のようになります.
「なぜ箱に入れておいた1枚と48枚のトランプの山を等しく扱ってよいのか?」
この疑問を何人かにぶつけてみたのですが,皆「それは当たり前じゃないか?」というのです.しかし,自分にはこのことが全然当たり前に思えないのです.最初に48枚と1枚を区別して48枚のほうからのみ無作為に3枚カードを抜き出すという操作を行うにも関わらず,最終的にはその48枚と1枚を同等に扱って48+1=49枚としてしまってよいのでしょうか?48枚のほうからのみダイアを3枚抜き出しているという操作を一見するかぎり,解答1で暗黙のうちに仮定されている,
「48枚と1枚のダイアの分布に偏りが出ていない(非常に曖昧な表現ですが他に良い表現がない)という仮定」
は全く自明でないのではないか?という疑問の方が直感的には妥当にすら思われるのです.
以上が私が解答1に納得できない理由の直感的な説明です.ただ,このままでは恐らく私が解答1に感じている気持ち悪さを共有してもらえないと思うのでもう少し客観的な説明を試みたいと思います.
まず,以下のような問題を考えます.

問題2-A
ジョーカーを除いたトランプ52枚の中から1枚のカードを抜き出し、表を見ないで箱の中にしまった。そして、この確率試行を行っている人間以外のある第3者が残りのカードから3枚ダイアを意図的に抜き出した.そしてその第3者は抜き出した3枚のダイアのカードを試行を行っている人間に見せた.

このとき、箱の中のカードがダイヤである確率はいくらか。

(この問題の場合,別に抜き出したダイア3枚を試行を行っている人間に見せる必要が全くないのですが,問題1との対比を明確にするために敢えてこうしています.)
この確率は1/4になります.問題1と異なるところは,ダイア3枚が抜き出されるのが意図的である,つまり確率1でダイア3枚が抜き出されるところにあります.
この問題においては解答1の論理,即ち「49枚の中に10枚ダイアがあるので確率は10/49である」は明らかに誤りとなります.
問題2-Aと問題1の違いは何なんでしょうか?
まぁ,少なくとも問題2-Aにおける操作が48枚と1枚の区別を明確にしているのは明らかです.つまり問題2-Aにおける第3者は箱の中に入れた1枚以外の48枚から抜き出さなければなりません.この点で48枚と1枚を明確に区別していることは明らかです.
では一方,問題1における操作は48枚と1枚を区別していないのでしょうか?あるいは,問題1における操作が48枚と1枚を区別しない何らかの操作と等価であることは自明なことなんでしょうか?
もしかしたら,問題2-Aの設定が非常に特殊なもので(実際,問題2-Aが非常に特殊だと感じる方は多いと思います),その特殊性から48枚と1枚を明確に区別しなければならない事態に陥ってしまっているのでしょうか?確かに第3者を連れてきて意図的にダイア3枚を抜き出すなんて特殊も良いところかも知れません.
そこで,問題2-Aをより一般化した状況で考えてみたいと思います.
まず以下のような機械M'を考えます.

機械M'


ある機械M'を考える.M'はトランプの山を入れる投入口1つとトランプを吐き出す口1つ,それから調整用ダイアルが2つ付いている.この調整用ダイアルはM'の内部パラメータpとqを調整するためのもので,各々0から1までの間で数値を調整できる.M'は入力としてトランプ51枚の山を受け付け,投入されたトランプの絵柄をスキャンする.その後,以下のように動作する.

  1. 投入されたトランプの中にダイアが12枚ある場合
    • 確率pでダイアのトランプ3枚を投入された51枚から任意に選び出して吐き出し口から吐き出す
    • 確率1-pでダイア3枚以外の任意の組み合わせのトランプ3枚を投入された51枚から選び出して吐き出し口から吐き出す
  2. 投入されたトランプの中にダイアが13枚ある場合
    • 確率qでダイアのトランプ3枚を投入された51枚から任意に選び出して吐き出し口から吐き出す
    • 確率1-qでダイア3枚以外の任意の組み合わせのトランプ3枚を投入された51枚から選び出して吐き出し口から吐き出す
  3. 上記に挙げた場合以外では動作は不定である

先の問題2-Aはこの機械M'のパラメータp,qを両方とも1に設定した場合に相当します.M'は人間の手で設計・プログラムされているという意味である種の作為的な操作を行っているといって良いかと思われます.
さあ,ここで以下の問題を考えます.

問題2-B
先に定義した機械M'を考える.M'のパラメータpを
「問題1の状況で最初に箱の中に入れるカードがダイアである場合に,51枚から無作為に引いたトランプ3枚がダイアであるような確率」
に設定する(p=44/4165).またパラメータqを
「問題1の状況で最初に箱の中に入れるカードがダイアでない場合に,51枚から無作為に引いたトランプ3枚がダイアであるような確率」
に設定する(q=286/20825).

さて,ジョーカーを除いたトランプ52枚の中から1枚のカードを抜き出し、表を見ないで箱の中にしまった。そして、残りのカードをM'の投入口に投入したところ,ダイア3枚がM'の吐き出し口から吐き出された.

このとき,箱の中のカードがダイアである確率はいくらか?

要するにこの問題では,機械M'があたかも51枚から3枚のトランプを無作為に抜き出したかのように振舞います.
この問題の答えはもちろん10/49です.この問題の解答に解答1の論理を適用して良いのでしょうか?あるいは解答1の論理を適用できることは自明なのでしょうか?
パラメータp,qを設定から少しでもずらすと途端に解答1の論理は破綻します.なぜ問題2-Bにおけるパラメータの設定においてのみ解答1の論理で正しい答えが得られ,それ以外のパラメータの設定では解答1の論理が通用しなくなるのでしょうか?
さらに付け加えると,問題2-Bの設定に限らず,一般にM'のpとqの設定をp:q=13:10となるような任意の組み合わせ(このようなパラメータp,qの組み合わせは無数に存在します)に設定すると,求める確率は10/49となります.
私には「問題1の確率と,ダイアが10枚入っている49枚から1枚を抜き出したときにそれがダイアである確率は明らかに同じだ」という論理より,「問題1の操作と問題2-Bの操作は同じとみなしてよい」という論理の方がよほど納得できます.従って,もし問題2-Bに解答1の論理が適用できることが自明でないならば問題1に対しても解答1の適用可能性は自明ではないでしょうし,逆に問題2-Bに解答1の論理を適用することが自明ならば問題1に解答1の論理を適用することも自明でしょう.
さて,問題2-Bに解答1の論理を適用できることは自明なのでしょうか?私はこれが自明であるとは思えないわけです.
このように問題2-Bと問題1を比較したとき,「問題1は,49枚の中にダイア10枚があるので(49枚の中にダイア10枚ある状況でカード1枚を引いて,それがダイアである確率と同じと考えて)答えは10/49である」という直感的な解答が非常に危ういものであると私は感じるのです.
以上から,私としては
「問題1は,49枚の中にダイアが10枚ある場合に1枚引いてそれがダイアである確率とたまたま偶然答えが一致しただけであり,問題1を解答1にあるような問題の置き換えを行って解答を得る論理的妥当性が非常に乏しい」
と感じるわけです.
どなたか,問題1を解答1のように単純な問題に置き換えることが妥当であることを私に納得させてやってはくださいませんか?

おまけ

ちなみに,上で機械M'というふうに名前にアポストロフィーが付いているのは,これが改良版だからです.もともともうちょっと単純な設定の機械Mで考察していたのですが,Mだと致命的な欠陥があることが判明したので,改良の結果上のような設定の機械M'が誕生しました.で,欠陥がある方の機械Mの問題も状況としては非常に面白いので最後におまけの問題として載せておきます.

問題3
ある機械Mを考える.Mにはトランプの山を入れる投入口1つとトランプを吐き出す口1つ, それから調整用ダイアルが1つ付いている.この調整用ダイアルはMの内部パラメータpを調整するもので0から1までの間で数値を設定できる.
このMは入力としてトランプ51枚の山を受け付け,受け付けたトランプの絵柄をスキャンする.そしてpの確率で投入された51枚からダイア3枚を選び出し吐き出し口からそれらを吐き出す.残りの1-pの確率ではダイア3枚以外の組み合わせの適当な3枚を投入された51枚から選び出し吐き出し口から吐き出す.

さて,ジョーカーを除いたトランプ52枚の中から1枚のカードを抜き出し、表を見ないで箱の中にしまった。そして、残りのカードをMの投入口に投入したところ,ダイア3枚がMの吐き出し口から吐き出された.

このとき,箱の中のカードがダイアである確率はいくらか?

もちろんこの問題の設定は答えはMのパラメータpに依存しますから,答えはpを含んだ答えで構いません.
#この問題,自分が高校生の頃から5年以上もずっと疑問のままで未だに納得のいく説明が思いつかないままです.実際,私自身も解答1の論理は当たり前だと直感的には感じているだけに,その直感に論理的な説明を下せないのが非常に気持ちが悪いのです.そこにきて機械M'のアイデアをつい最近思いついたのでもう吐きそうです・・・.